四月一日 月曜日

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 金曜までに、と山保が言うのには理由がある。来週月曜日から、七海を含めた新入社員は皆、新入社員研修に行ってしまうのだ。期間は約一か月。全国津々浦々から今年の新入社員たちが集まり、東京西部の研修センターに泊まり込みで行われる。研修前の今週一週間は新入社員たちにとって、顔合わせの意味の大きい〝配属課見学〟の期間なのである。  山保が顎を上げて何かを見ている。その視線を追ってみると、丸い掛け時計があった。 「凛子さーん」  と、山保は声を張る。 「はぁい?」 「もうそろそろ時間じゃないですか? 七海を連れてく」 「あらヤダ、ほんと! ちょっと待って、アタシ一瞬お手洗い行ってきていい?」 「お色直しなんてやめてくださいよ?」 「だって人事部長アタシ、結構タイプなんだもの」  音無代理がデスクから首を伸ばして言う。 「やめときなって、凛子さん。人事部長、とっくに結婚してるし子どもも二人いるでしょ? 火遊びなんて絶対しない堅物だし……なにより、あの人時間にうるさいから、早めに行った方がいいよ」 「うーん」  三輪室長は不満げにうなってジャケットを着、緩めていたネクタイをきゅっと上げる。途端に表情が凛々しくなる。 「お待たせ。行こうか、七海くん」  口調まで変わった。背筋を伸ばして大股で歩き出すさまは、これぞ管理者、といった感じだ。
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