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四月二日 火曜日
段ボールに文房具と研修資料をずっしり詰め込んで抱え、営業監査室――通称営監の扉を開けようとした理央は、ノブが下がらないことでようやく、社員証をタッチしなければと気づく。
「なにしてんの? おはよ?」
「わっ」
扉を前にもたもたしていると、背後から声を掛けられた。振り向けば、カップコーヒーを片手に山保が立っている。ジャケットの前を開け、ピンク地に紺のストライプのネクタイが、爽やかに甘い微笑みによく合っている。
「お、はようございますっ、山保さん」
「そんなびっくりしないでよ。……ずいぶんと大荷物だな」
楽しむような苦笑とともに、山保は手を伸ばして自分の社員証をかざす。そうして鍵の外れた扉を、理央の後ろから押し開けてくれる。
「どうぞ?」
「ありがとうございます。でも」
「アンチパスバック(共連れ防止機能)のこと? へーきへーき。出るときも俺と出ればチャラ」
言いながら山保が背中を押してくるので、理央は気が進まないながらも初出勤の入室を果たす。
「おはようございます!」
新入社員らしく元気に声を出せば、三輪室長や音無代理をはじめ、先に来ているメンバーが口々にあいさつを返してくれる。
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