四月一日 月曜日

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「他と比べれば小さな部署だけどね」  前を歩く人事担当の男は首だけ振り向いて言った。「いいところだよ。君はラッキーだ」 「はぁ、そうですか……ね」  男のジャケットの背中についた皺を見つめていた七海理央は、さっと視線を上げ、肯定とも否定ともつかない笑みを浮かべた。  お昼に食べたランチパックのツナが、うっと胃の中で膨らんだような気がした。食べたのはもう三時間も前だというのに。  廊下は静かである。ここは、大手生命保険会社〝笑顔生命〟本社、三十階建てオフィスビルの十二階。敷き詰められた質の良い絨毯は、二人分の足音をすっかり吸い込んでいる。高い天井に等間隔に点在するライトは暖色で、ほどよく絞られていて、まるでホテルの廊下のように落ち着いた雰囲気だ。
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