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男の姿が完全に扉の向こうへ消えてしまうと、七海くん、と三輪室長が切り出した。
「あなたのことは山保くんに任せてあるから、あとは彼に聞いちゃって? じゃあ山保くん、よろしくねェ」
なぜか途端にしなをつくった言い方になる三輪室長に、山保が苦笑しつつ答える。
「りょーかいです、室長」
「やぁだ、〝凛子さん〟って呼んで。何度も言ってるでしょう?」
「それは室長命令ですか、凛子さん」
山保はにやりとしている。
「そうよ。大事なことなの。できればイケボで呼んでちょうだい。アタシのモチベーションに関わるんだから」
「凛子さん」
「いやん、いいわぁ……プラス二時間は超勤できそう」
「ちょっとちょっと、そこのお二人」
隣の室長代理席から細身の男がゆらゆらとやってきた。背丈も年齢も三輪室長と同じくらいだが、幸薄そうな風貌のせいか、今にも体調不良で倒れてしまいそうに見える。「人事が帰ったからってそんな、通常運転過ぎだよ。七海くんが引いてるだろう」
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