第一章

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彼と私も、出会ってすぐに恋をした。お互いにしか分からない空気感が妙に居心地がよくて、私には、彼との未来しか頭になかったけれど、彼には決定的に私とは違うところがあった。それが、日々積み重なって、切り出したのはどっちだったか。お互いそれが最良の選択だとでもいうように、ちゃんと向き合って、離れる決断をした。 「彼がいない生活はね、それはそれは恐ろしいものだったわ。大学に行けば、どんなに辛くても彼を見掛けてしまうかもしれない。彼の笑顔なんて見たら、私はもう生きていけないって思ったのよ」 おばあさんは、私の様子など気にも留めず話を続けていた。 「だって、私がいなくても幸せにやっていけてしまうなんて、受け止められないでしょう」 その言葉が、否応なしに心に響く。何度聞いても、ここで私は一瞬思考を奪われる。 “私がいなくても、幸せにやっていける” そんなの、考えるだけで心がちぎれてしまいそうだった。だって私はいつだって、ただの一度も、彼と離れたくなんかなかったから。 「けれどね、それでもやっぱり、生きていかなくてはならなかったから、なんとなくお話をいただいて、児童養護施設にボランティアに行くことにしたの。少しでも気の紛れることがしたかったし、誰かのためにしか動けなかったのね。自分のためにしたかったことは、みんな、彼と一緒になくなってしまったから」 今、私がここでこうしているのも、もしかしたら同じなのかもしれない。ふいに思う。 彼との別れの原因は、“結婚概念”だった。彼は、結婚という考え自体がない人だった。何度もお互い話をして、説得に近いことも試みてきた。その場では、納得したように話は終わるのに、ふとした時に気付くのだ。彼が結婚など、少しも考えていないことに。
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