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本当は、おめでとうなんて、言いたくはなかった。
見慣れない明るい髪色、二階の空き教室、確実に少なくなっていく登校日。
偶然、見かけたと思えばその背中は誰かの告白へ向かう途中で。
着々と膨らんでいく桜の蕾。
春なんて、嫌いだ。
私がなにをしたって遥先輩が卒業してしまうという事実は変わらない。
そう分かっているはずなのに、どうしても言葉にはしたくなくて。
私は目を瞑った。
「俺、東京の大学に行くんだ」
知ってます。
遥先輩は遥先輩が思っている以上に人気があるんだから、そんなひとを周りが放っておくわけないでしょう。
目を瞑っても、彼の噂は止まらない。
知りたくないと、聞きたくないと、そんな我儘は聞き入ってはもらえなかった。
だったら、もう、いっそ ーーー
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