第一章 未来にさよなら

10/41
前へ
/209ページ
次へ
「どう?自信は」  宗太郎の質問に、また不思議に思いながらも答える茉莉花。 「記録会とは言え、大会への出場権が目的だから。順位重視ね」 「茉莉花だったら問題ないか。100も、幅跳びも」 「そっちは?せいぜいどっちかで出場権を取りなさいよ」 「そうだね…… どうなるかな」  と、不敵な笑みを浮かべる宗太郎。 「………」 「ん?どうした?茉莉花」 「ねぇ、ソータ……」 「何?」 「いいえ…… なんでもない」 「じゃ、100に行って来るね」 「ええ。頑張って」 「ゲ…… オマエと同じ組かよ……」  五レーンが用意された特設の100m用の直線。エントリーは三十人のため、計六組によるタイムレースとなる。  予選→決勝のように勝ち進むのではなく、ブッツケ一回ポッキリでの、タイム順のレースとなるのだ。  宗太郎の隣に学年一俊足の持ち主がいたため、大袈裟に嫌がる顔を作る宗太郎。 「ま、せいぜい離されないように、ついて来な」  スターティングブロックをセットしながら、自信満々の俊足君。  それもそのはず。他の生徒とは群を抜いて速く、県大会出場の常連でもあった。  さぁ…… それはどっちかな。宗太郎がまた不敵な笑みを浮かべる。 「位置について──」 スターターの声がかかる。 「用意──」  乾いた雷管の音が青空に響くと、レースを見ている群衆から騒めきが起こる。  スタートダッシュを決めて頭一つリードしたのは、なんと宗太郎なのである。  遅れまいと俊足君も必死に食いつこうとするが……  結局みるみる離され、なんと宗太郎がダントツのトップでレースは終わった。ダントツ?相手は県大会の常連のはずである。そのタイムとは……  走り終えた五人が、自分のタイムを聞くためにゴール地点へと戻って来た。 「幸崎……」 「ふぇーい」  気の抜けるような宗太郎の返事。ストップウォッチを持っている教師の手が震えている。 「11秒8……」 「じゅういちびょう、はちぃ!?」  ここはオールウェザーの立派な競技場ではない。スパイクこそ履いているものの、中学校の普通の校庭である。  こんな条件で12秒を切るとは…… そのタイムを耳にした誰もが驚き、ざわつき始めている。
/209ページ

最初のコメントを投稿しよう!

119人が本棚に入れています
本棚に追加