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「おい宗太郎!オマエ、どーゆーつもりだよ」
同じ学科の連中数人が、そんな宗太郎の元へやって来た。
「…… 何が?」
雑誌の世界から引き戻された宗太郎。少し不機嫌になる。
「香ちゃんの誘いを断ったらしいじゃないか」
どこの世界でも、こう言ったタグイの噂は信じられないスピードで伝達されるものだ。
雑誌を閉じ、大袈裟に溜め息を吐く。
「断ったんじゃないよ。ちょっと考えさせて、って言っただけ」
「同じコトだろ。オマエはバカか?香ちゃんの誘いだぞ!なんで即答しないんだよ」
「しょうがないじゃない。ゼミやらバイトやらで忙しいし……」
群がって来た連中の態度が、怒りから安堵に変わっていくのが手に取るようにわかる。
「まぁ…… いいや。ライバルがひとり、減ったって考えていいんだな」
「…… 勝手にしろ」
連中が去って行き、宗太郎が再び雑誌の世界に入り込んでいく様を、遠くから見ている人物がいる。
上岡隼人である。
隼人は宗太郎の高校時代からの級友であり、この大学でも同じ研究室に属している。
何か言いたげな含みのある表情で宗太郎に近付いて行く。だが雑誌の世界の中にいる宗太郎は、それに気付いてはいない。
「宗ちゃん、ちょっといいか?」
ビクッと身体を反応させ、声の主を見る宗太郎。
「…… なんだ隼人か。驚かすなよ」
宗太郎の向かい側に座り、テーブルに肘を付けて顔を近付ける隼人。
「どうしちゃったんだよ。最近の宗ちゃんって、まるで高校時代に戻っちゃったようじゃないか。
この大学でまた宗ちゃんと一緒になって、まるで変身したように明るくなってくれて。
心細かった俺は、すげー嬉しかったんだぜ。なぁ、何があったんだよ」
囁くような小声で言う隼人に、一気に核心を突かれたような気がした。
そうなんだよ…… 最近の僕って、まるで高校時代までの僕に戻っちゃったかのようなんだよ── 宗太郎が溜め息を吐く。
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