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「確かに。この大学に入って、ここの連中と知り合えて、僕はかなり変わったと思うけど。ふと考えちゃうことがあるんだよね」
そこまで言うと、隼人が口元に不敵な笑みを浮かべる。
「今の性格のまま、高校時代を過ごせたらなぁ…… だろ?」
つられて宗太郎も笑う。高校時代までの宗太郎とは、休み時間でも教室の隅でじっとしているような、大人しいタイプの少年だったのである。
それが大学に入り環境の変化からか、いつも仲間の中心で冗談を言っているような明るいタイプに変貌したのである。
「そのとおり!よくわかってるじゃん、隼人」
そんな宗太郎の変化を目の当たりにしてきた隼人。そう思う宗太郎の気持ちもわからないでもない。そして、その理由まで。
「なぁ、宗ちゃん……」
「ゴメン、隼人。バイトの時間だからそろそろ帰るわ」
外国製の腕時計を見て立ち上がる宗太郎。
「お…… おう。明日はエンゼル水族館だからな、遅れるなよ」
「わかってるって。じゃあな!」
*
大学から3駅ほど電車に乗った街に住んでいる宗太郎は、駅から一人暮らしをする部屋までの中間に位置するファストフード店でアルバイトをしている。
学食で隼人にはバイトがあるからと言ったが、それはその場を離れたいための出任せ。
隼人にこれ以上、核心を突かれたくなかったからだ。
その日はアルバイトがなかったものの、部屋までの通り道でもあるため一度店に顔を出してみる。
「おはようございま~……」
スタッフ用の通用口から細い廊下を通り、厨房に顔を出しながら挨拶をする。
「よう、幸崎!おはよう!」
ハンバーグパティをひっくり返しながら、店長である鹿島弘行が笑顔を向け、そして続ける。
「あれ?今日入ってるシフトだったっけ?」
「いいや、大学の帰りにちょっと寄っただけ。店長、今日何時まで?」
「俺?九時。なんで?」
「んん…… じゃあ、またその頃来るね。飲みに行っていい?」
歳も近く、なにかと気の合う宗太郎と弘行。
店では店長とアルバイトという立場の違いはあるがプライベートでは良き友人であり、ふたりはよく弘行の部屋で朝まで飲み明かしているのである。
「ああ…… いいよ。じゃ、待ってるわ」
「サンキュ。んじゃ」
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