第一章 未来にさよなら

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*  弘行の部屋は徒歩で五分ほどの場所にある。宗太郎の部屋から店を介して、ちょうど直角の位置だ。  午後九時の少し前。再び店を訪れた宗太郎がスタッフ用の控え室のソファーに横たわっている。  やがて仕事を終えた弘行が鼻歌混じりで階段を上がって来た。機嫌が良いようである。 「どうした?宗太。なんかあったのか?」  ロッカーの前に立ち、制服を脱ぎながら弘行が言う。  奥の座敷になっている場所にいる宗太郎。弘行の位置からはソファーに横たわる足しか見えないものの、二階にいるのは宗太郎だけと把握しているからこその、この行動。 「んん…… ヒロちゃんちに行ってから話すよ」  プライベートでも仲の良いふたり。他に店の者がいない時には、お互いを「宗太」「ヒロ」と呼び合っている。 「お待たせ。行こうか」  着替えを終えた弘行が奥座敷に顔を出す。「待ってました」と言わんばかりにソファーから飛び起き、宗太郎は靴を履く。 *  途中にあるコンビニに立ち寄り、酒とツマミを購入してから、いつものように弘行の部屋へ入る。  青白く薄暗い間接照明を灯すと、そこはまるでちょっとイカしたバーのようだ。  とは言え、小さなキッチンの奥にはベッドとオーディオセットしかない、男性が一人暮らしをする、ごく普通の部屋なのだが。  弘行がキッチンに立っている間に宗太郎はベッドに座り、勝手にテレビを点ける。いつもここで見ているBSの音楽番組だ。 「で…… 何があったんだ?宗太」  テレビを見ながらくだらない談笑を続けるふたり。酔いもかなり回って来た頃、突然、弘行が宗太郎に訊ねた。 「僕ってさぁ…… ヒロちゃんから見たら、どんな奴?」 「どんなヤツって……」  鸚鵡(オウム)返しの弘行。 「じゃあ、アルバイトとして、どう?」 「んん…… 明るくて、ハキハキしてて、動作も頭の回転も速いから、コイツにだったら任せられるな、って思うまでそんなに時間がかからなかった。頼りにできるヤツだよ。評価の分だけ時給、上げてやってるだろ?」  態度では理解しているものの。メント向かって言われると、やはりどこか恥ずかしい。 「じゃあ、プライベートでは?」 「俺は認めた奴しか、部屋に入れん!」  弘行の返答に、どこか焦点の合わない場所を見る宗太郎。 「どうしたんだよ、何があったんだよ」  すでにかなりの数のビールの空き缶が床に転がっている。
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