第一章 未来にさよなら

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「特に、何かあった…… ってワケじゃないんだけど。僕ってね、高校時代まではヒロが知ってるような僕じゃなかったのよ。  クラスの中でも同じ部活の仲間ぐらいとしか話さないし、むしろ大人しいタイプだったのね。ま、それなりに青春はしてたと思うけど。  だからね。今の性格のまま、あの時に戻れたらなぁ…… って、本気で考えちゃうんだよね」  宗太郎の話を、どこか含みのある笑みを浮かべながら聞いている弘行。学食で話した時の隼人と同じ態度だ。 「そっか…… で、可愛いのか?そのコは」 「そりゃあもう。どこか古めかしくて、時代劇に出てくる深窓のお姫様、って感じで── って、誰のこと?」  弘行が爆笑し始める。 「オマエさぁ、大学でモテるだろ」  ひとしきり笑い終わったあと、まだ声をひきつかせながら弘行が言う。 「んん…… まぁ。こんなのって、大学に入ってからだから、きっとこの性格のせいなんだろうなぁ、って思ってるけど」  それまで大人しかった宗太郎が、急に明るくなった本当の原因は大学でなく、弘行が店長を務めるファストフード店で始めたアルバイトにあるのではないか、と思う時がある。  同世代の仲間に囲まれて接しやすい店長から指導を受けているうちに、いつしか一皮剥けていたのではないか。  その変貌を知り得るのは、唯一同じ高校から進学した上岡隼人ただ一人。  他の者には── 高校時代までしか知らない者にとっての今の宗太郎、現在しか知らない者にとっての高校時代までの宗太郎は、まるで別人のように映るのであろう。 「気付いてないと思うけど、オマエ、店でもモテてるんだぜ。『幸崎さんって付き合ってるヒトとか、いるんですかねぇ』って、高校生からよく()かれるぞ」 「ふーん…… そーなんだ」 「高校時代から今の性格なら、意中の君に好印象を持たせられる…… 誰でも考えることだよ」 「そうなの?ヒロもそんなこと、考えるの?」 「まぁ人間だからな。似たようなことは考えるよ。でも今を生きてるワケだから、忘れちゃいな。高校時代のコのことなんて。大学にでも、店にでも、宗太に似合うコがいるだろうし、これから現れるかも知れないし」 「まぁ、そうなんだけど……」  頭ではわかっているものの、どこか納得のいかない宗太郎。
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