第一章 未来にさよなら

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「くだらないコト考えてないで寝るぞ!明日、早いんだ。午前中、支部に行かなきゃいけないし」  と言って、ベッドから宗太郎を追い出すように弘行が言う。  宗太郎も慣れているようで、ベッドとオーディオラックとのわずかな隙間にマットレスを敷き、枕代わりのクッションを用意する。 「僕も。研修で水族館に行かなきゃいけないから」 「どこの?」  宗太郎が大学で海洋生物を専攻していることは、弘行も知っている。 「エンゼル」 「あぁ…… あそこ、いいよな。真ん中の大きな水槽がいいんだよな。いろんな魚がいて」 「…… 誰と行ったの?」 「ま、いいじゃねぇか」  その時。宗太郎の視界の隅っこで何か動くものがあった。無意識にそっちの方向を見る。まさかな…… そんなはずがない──  宗太郎の目に映ったもの。それは生まれたばかりくらいの大きさの、子供の背中に羽根が生えたような物体…… 天使?  しかも弘行の部屋の天井に近い場所。まさかな…… 手で目をこすり、再びその方向を見てみると──  ホラ、やっぱり。見間違えだよ。 「ヒロ、念のために()くけどさ」 「何?」 「天使なんて、飼ってないよね」 「…… バカか、オマエは」 「あれ?」  外そうとした腕時計の針が止まってしまっていることに宗太郎は気付く。  中学生の頃、親戚の叔父からもらった海外のお土産である。文字盤に『ANGEL』と書かれたモノトーン調のシックな代物であり、宗太郎は気に入って使用している。  電池の消耗が早いのが難点ではあるが…… 裏面のふたをコインで開けられるため、電池の交換は自分で行う。  財布の中から予備の電池を取り出し、交換を行う。そして、その様子を見届けた弘行が言う。 「電気、消すぞ」 「OK。おやすみ」  今の性格のまま高校時代に戻りたい── 学食で隼人に言われたこと。ここで弘行に言われたこと。そして何よりも自分の気持ち。  真っ暗な弘行の部屋の床に仰向けになりながら、あれこれ考えているうちに宗太郎は眠りに就いてしまっていた。  夢を見ているのか── どこまでも続く草原。空は青く、ところどころに白い雲がポッカリと浮かんでいる。爽やかな風が足元の草を一様に揺らし、丘の上へと登って行く。  その風の向こうに真っ白なドレスを着た、金色のストレートヘアーの若い女性らしき人物が立っている。「誰?」そう思って近付こうとした瞬間、視界が真っ白になる──
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