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宗太郎は目を覚ました。いや── 本当に覚ましたのかどうかは、わからない。
眠りに就いたのは弘行の部屋だ。だから草原でパツキンのネーチャンを見たのは、間違いなく夢だ。うん、きっと夢だ。
じゃあ、ここはどうだ…… だって。そこは宗太郎の実家の、自分のベッドなのだから。そうか。これは夢の続きに違いない。
布団から出ると少し肌寒い。季節は夏ではなさそうだ。部屋の時計を見ると、時刻は六時半…… ドアの向こうからか、いい匂いが漂って来る。
その匂いに誘われたのか、部屋を出て階下への階段を降りる。
「あら…… おはよう。珍しいじゃない、こんなに早く自分で起きるなんて」
キッチンでは母親が朝食を作っていた。軽く挨拶をしてからリビングに向かいテレビを点ける──
ニュース番組がどこか古めかしい。まるで数年前をそのまま模写したような、実にリアルな夢だなぁ…… と、考えながらソファーに横たわる。
夢なのだろうと思いながらも、宗太郎は母親が用意してくれた朝食を食べ、そして洗面台に向かう。
やはり…… ここは数年前なのだろう。鏡に映る宗太郎の顔は中学時代くらいのものだ。それでもごく自然に洗面を終え、自分の部屋に戻る。
クローゼットの中には通っていた中学校の制服が。やっぱり。これは自分の中学時代なのか……
「いつまで部屋にいるの?着替えは終わったの?そろそろ茉莉花ちゃん来ちゃうわよ」
階下から聞こえた母親の声に、宗太郎はカバンを抱えて玄関に向かう。
ガチャ。
「おっす!」
宗太郎が玄関のドアを開けると、額をぶつけるんじゃないかと思うくらいの場所に近所の幼馴染の女の子、同級生である伊集院茉莉花が立っていた。
小麦色のスラリとした長身の体躯に、綺麗な楕円形の輪郭の顔。大きく澄んだ瞳を輝かせて、宗太郎に向けて片手を挙げている。
「…… はよ」
茉莉花をすり抜けるように歩き始める宗太郎。その背中を見て少し首を傾げてから茉莉花も宗太郎のあとを追う。
「何かあったの?ソータ」
隼人とかヒロちゃんみたいな口を利くんじゃねぇよ!そう思うと急に腹立たしくなる。
「別に…… なんもねーよ」
「ふーん…… まぁ、いいや。今日は練習、お休みよ」
「なんの?」
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