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第一章 未来にさよなら
「ねぇ…… また違うコトを考えてるでしょ」
中山香の問いかけに、幸崎宗太郎は反応しない。
ひとつ大袈裟に溜め息を吐いてから、もっと大きな声をあげる。
「幸崎くん!」
その声にハッとして、窓の外に向けていた視線を香のほうに戻す宗太郎。
その仕草を見た香から、さらに大きな溜め息が漏れる。
「なによ…… ほかの女のコトでも考えてるの?」
大学は前期試験の、その全ての日程が終了。学生達はこの午後から、すでに夏休み気分である。
学食で食事を終えた宗太郎を呼び止めたのは同じ学年、同じ学科である香であった。宗太郎をキャンパス外の喫茶店に誘う香。話なら学食でもいいのに──
そう思いながらも宗太郎は香に従い、窓際のテーブルに向かい合う。
中山香はキャンパスでのマドンナ的な存在だ。自他ともに認めるその美貌のため、いつも野郎共を取り巻いている。
そんな自信からか、出梅を匂わせるような晴天のこの日、香は露出の激しいファッションに身を包んでいる。
宗太郎も、そんな香に誘われて悪い気はしないであっただろう。だが、今の宗太郎には手放しで喜べない事情がある。
喫茶店の席に着くや否や、香は宗太郎を質問攻めにする。
試験の手応えはどうだったか、明日からは大学に来るのか、夏休み中に何か予定はあるのか──
要約すると、最終的に言いたいことは一言。「夏休み、私と一緒に遊びませんか?」
しかし宗太郎は、男なら誰もが羨む状況にもかかわらず香の質問にも上の空で窓の外ばかり見ている。
そりゃあ、誰でも怒って大声もあげたくなるって。
「あぁ…… 聞いてる、聞いてる。夏休みの予定だろう?」
そう言いながらの宗太郎の行動に、香は怒りを通り越して呆れてしまった。
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