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私の好きな人は干支ひとまわりと三分の二も離れた歳の人だ。
ややこしい表現をしてしまって申し訳ない、はっきり言えば私が二十二歳、あの人が四十二歳、つまりは二十の差。
四十二歳のおじさんは、私の従兄伯父だ。
従兄伯父って字面で見るとわかりにくいけど、要は親の従兄弟にあたる人であって、私の母親の従兄弟水田直哉(みずたなおや)さんその人だった。
直さん(私は彼の事をこう呼ぶ)は私が住んでいる家のすぐ近くで和菓子屋『まりのや』を営んでいる。
小さい小さいお店で、お店の表はわずか八畳分くらいしかなく、『まりのや』という看板も年季が入っており、木でできたその看板はほこりと雨風で本来の色を失って煤けた色をしていた。
最初、電話で母親から直さんが和菓子屋を営んでいると聞いた時はかなりびっくりした。
私が知っている限りでは直さん、サラリーマンだったからだ。しかも超エリートの。
「直くんね、なんか知人のおばあさんがやっている和菓子屋さんを譲り受けたって言って、突然会社辞めてその和菓子屋さんで働き始めちゃったんだって。おじいちゃんが直くんのお母さん、おじいちゃんにとってはお姉さんね。お姉さんから私じゃどうにもできなかったから、直くんに会社辞めた理由を聞いて和菓子屋を辞めるようにいってきてほしいって頼んできたんですって」
「へえ……」
「でも、おじいちゃん私たちと住んでいるから遠いでしょ? だからあんたに頼みたいのよ、真理」
「はい? なんでそこで私なの?」
「あら言ってなかった? その和菓子屋さんあんたが住んでる家の二〇〇メートルくらい先にあるのよ、グーグルマップで調べてみなさいよ、まりのやって店だから」
スマートフォンを耳に押しつけながら、私はレポートを書くために立ちあげていたパソコンでグーグルマップで『まりのや』と調べた。漢字がわからいのでひらがなで入れてみたが、検索にかからない。
「お母さん、まりのや出てこないよ?」
「じゃあ適当にストリートビューで調べて見てよ、あんたの家の周り」
母親はとにかく私の家の近くにあるとしか聞いてなくて、実際自分で調べたわけではなかったようだ。自分に関係がないと分かった途端、私にこの件を全面的に任せる気が満々なのが見え見えだった。母親はそういう人だ。
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