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ストリートビューで私が住んでいるアパートの周りの視点を変えながら調べていると、駅の方に向かって二〇〇メートルほど進んだところに『まりのや』はあった。
向かいには最近できたスタイリッシュな歯医者があって、そこはよく私が学校への行き帰りで目にしているが、その向かいにそう言えばこんな店があったなと、私にとって『まりのや』はその程度の認識だった。
ちなみにこの町に住み始めてかれこれもう四年は経つ。トウダイモトクラシ、ってやつだ。
***
ということで、私は次の土曜日に『まりのや』に行ってみることにした。
一応直さんと会うのは久しぶりなので、持っている服でなるべく女子大生っぽい可愛い服を選んでみた。いつもはあまりしない化粧をしたものだから、ちょっと落ち着かないけど何もしないよりはいいだろう。
準備に一時間半もかけたけど、『まりのや』には徒歩二分もしないうちに着いた。
本当にトウダイモトクラシだった。
なんで今まで見落としていたんだろうと検索していた時は思ったが、外見を改めて見た今、それがどうしてかわかったような気がする。
このお店の外見はとても地味で、看板の文字も黒一色で、特に何も情報がない。
市外局番のない電話番号くらいしか後は情報がなく、ガラス戸には「団子 八十円」などと書かれた色あせた半紙が貼り付けてあるくらいだ。
ざっと店の死角から外装を見た所で、いよいよ直さんと内装を見るために私は店内に入った。
張り切って入ったが、なんと店内には誰もいなかった。
店内を見渡すと、ショーケースや煎餅を置いた棚のせいで客が五人も入ればいっぱいになるくらいで、そしてなんだか懐かしい匂いが漂っている。
懐かしい匂いを肺いっぱいに入れながら、ショーケースを見る。
ケースにはみたらし団子、草団子、おまんじゅうにお花をかたどったお菓子、それから私の好きな大福が並んでいた。
ショーケース越しなのに、あんこの甘い香りがふっとにおってくるもんだから、あとで買おうと私は心に決めた。
おっと、和菓子に見とれていて忘れかけていたけど直さんはどこにいるんだろう。
少し恥ずかしいけどこれは声をかけてみるしかないのかも、と勇気を出して店の奥に「すみません」と声をかけようとしたその時。
「あれ……もしかしてまりちゃん?」
「っひゃああ!」
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