第一話 再会

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 圭介は母親の顔を見て、聖志へ視線を移しペコリとお辞儀した。  記憶が無いのだからよそよそしいのも納得だ。聖志はホッとして立ち上がり、圭介へ近づいた。 「久しぶり。じゃないか……。初めましてみたいなもんだな」  俺のこと覚えてる? なんて聞けないよな。記憶があったって、きっと覚えてないだろうし。 「あ……ごめん。記憶が……」  眉を下げ困ったような申し訳なさそうな表情で見上げる圭介。  入院して髪を切るどころじゃないからだろう。目にかかる長い前髪の隙間から聖志を見つめる圭介の顔は高校の時とまったく変わっていなかった。白く柔らかそうな頬も、涼しげで切れ長の二重の目元も、口角がキレイに上がった形の良い唇も、記憶の中の圭介と寸分違わず、記憶よりももっと色鮮やかに目の前に存在していた。その奇跡に聖志は一瞬息を呑み、安心させるように微笑んで頷いた。 「うん。話は聞いたよ。大変だったな。俺で良ければ力になりたい。圭介は忘れてても、お前は俺の大事な友達だからね」  『友達』という単語を聞いた途端、浮かない顔だった圭介の表情が少し晴れた。 「ありがと。助かるよ。よろしく」  松葉杖に片腕を乗せ手を差し出す圭介。その、男にしては小さく柔らかそうな手のひらを聖志は軽く握り、ギュッと力を込めた。 「こちらこそ。よろしく」 「……名前……聞いていいかな?」  キョロッと覗き込むように視線を合わせ圭介が言った。 「水沢聖志。圭介は聖君って呼んでたよ」  圭介は視線を宙へ漂わせ、自分を納得させるようにフンフンと微かに頷き、「聖君ね」とにっこり微笑んで見せる。心配されないように努めてるつもり。そんな作った微笑みだった。  三人で圭介の病室へ戻りながら会話を続ける。 「退院はいつの予定なの?」  聖志の質問に母親が口を開いた。 「もう後は通院でいいって言われたのよね? 明日? 明後日?」 「明後日だって」 「金曜日ね……お迎えは何時かしら。夕方でも大丈夫?」 「いいよ。タクシーで帰るから」 「金曜日なら、俺、くるよ。タクシーの運ちゃんに荷物運んで貰えないだろ?」 「荷物ってほどもないんだけど……」  圭介はチラリと母親を見て、他人行儀な笑顔を見せた。お母さんにも俺にも気を遣って大変だな。と聖志はその様子を観察しながら思った。
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