第二話 友達

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「ほら、俺取りに行ってくるよ」  聖志はスクッと立ち上がるとドアを開け、直ぐに晩御飯の乗ったトレーを持って戻ってきた。 「……ありがと」 「全然心のこもってないありがとうだなー」  聖志は笑いながら、棚からテーブルを引き出し、そこへトレーを置いた。  つまらなそうな圭介のお礼は心がこもらないのも無理はない。実際に圭介の心はアルバムにあったのだ。  ずっと病院のベッドの上で腹が減るはずもなく、楽しいひと時を中断させた夕食の時間は疎ましいばかりだった。それに、夕食の時間は同時に面会時間の終わりを意味している。圭介はまた一人になってしまう。聖志は唇を尖らせ不満顔を隠そうとしない圭介へ宥めるように言った。 「明日は退院祝いに好きな物作ってやるよ。ハンバーグでいいか?」 「え! マジ!! なんで知ってんの?」  自分の大好物の名前が飛び出し、思わず声を弾ませた圭介に、聖志はニヤリとして言った。 「圭介の事ならきっと、圭介より把握してるよ」 「へへ、なんか照れちゃうな」  実際に記憶を失った人間にキツイ冗談といえる。でも、圭介は気にするどころか嬉しくさえ感じていた。たった二日、それも数時間会っただけ。同級生で友達だったとは言ってもそれは言葉だけで、圭介の記憶にはいない聖志だが、その存在は既に圭介の心の支えになっていた。 「だから、今日はこれちゃんと食べて。明日の十時には迎えに来るから」 「うん。ありがと! 明日、また……ね?」  アルバムを両手で持ち上げお願いすると、聖志はまた圭介の頭をポンポンと優しく叩いた。大きくて暖かな感触。それはすごく心地よくどこか懐かしい。 「うん。また明日ね」  聖志は爽やかな笑顔を残し病室をあとにした。    
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