第二話 友達

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 翌朝。聖志は約束通り、十時きっかりに現れた。  圭介は自分を少し愉快に感じた。こんなにウキウキした気分で退院できるなんて思ってもみなかったのだ。圭介の表情はとても明るかった。それは退院できるからではなく、聖志と一緒に病院を出て自分のマンションへ帰ることができるからだ。  就職してからの記憶はあるにしても、圭介の一部が無くなっていることに変わりはない。何とも言い難い不安が常に圭介につきまとっているのだ。一人暮らししているマンションへ、ひとりで戻るのを少し怖くも感じていた。  聖志は圭介の荷物を全部持ち、松葉杖の圭介に寄り添うように一階へ降りる。退院の手続きも率先して手伝った。 「圭介、お金は用意してある?」 「うん。昨日母さんにおろして来てもらった」 「ここ、本人記入欄だから、名前と住所と電話番号書いてって」 「はーい」  聖志のおかげで手続きもスムーズに終わり、入院患者専用の出入り口から駐車場までゆっくりと歩く。聖志は圭介のペースに合わせゆっくり歩いた。 「これなんだ。圭介座れるかな」  聖志は車のドアを開け、圭介がスムーズに助手席に座れるよう手伝った。聖志の車は、ワイルドなゴツいタイプの四駆。スタイリッシュな見た目の聖志とはイメージが違う車だと圭介は思った。 「シート高くてごめんな。ナビに入れるから住所言ってくれる?」  圭介は素直に頷き、マンションの住所を告げた。  車は病院の駐車場を出て、国道を南へ走り出す。流れる景色を見ながら実家に戻らなくて良かったと圭介はしみじみと思った。  家族が気を使うという理由もあるが、一番の大きな理由は、実家が失ってしまった記憶の残る場所だったからだ。否応なしにどうしようもない現実を突きつけられる気がした。家族と一緒でも、家族と一緒だからこそ孤独はより増すように思えたのだ。社会人になってから住み始めたマンションならそういった要因はない。  それに……。  圭介は隣で運転している聖志をチラリと見た。なにより彼が一緒に居てくれるのだから。
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