第二話 友達

6/7

792人が本棚に入れています
本棚に追加
/88ページ
「一ヶ月誰も部屋に上がってないの?」 「あは、……そうなるねぇ」 「……冷蔵庫の中身とか……」 「あぁー、そこは大丈夫。ビールしか入ってないし」 「え~? まさかいっつもコンビニ弁当だったとか?」 「そんなもんでしょ? 男の一人暮らしなんて……どうぞー」  鞄から出した鍵を鍵穴に差込み、圭介は久々の扉を開け放ち聖志を招き入れた。 「ほーい。おっじゃましま~す」 「う……やっぱ空気悪いな……」  部屋の中はほぼ一ヶ月間締め切ったままだった。空気が澱んでいる。明るく挨拶した聖志さえもその声色を変えた。 「まーしょうがないね。圭介、そこ座ってろよ」  聖志の言葉に甘え、足に響かないように圭介はソファへゆっくりと腰を下ろす。慣れない松葉杖とほぼ寝たままで過ごしていた体は車に乗り、降りてから部屋まで歩くだけでも十分に疲労していた。  圭介は「ふーっ」と息を吐き目を閉じた。澱んでいた空気で充満していた部屋に、爽やかな風が吹き込むのを感じ、閉じていた瞼を開く。聖志がカーテンを開け、ベランダの窓を開け放っている。  明るい陽射しが差し込み、ふわりとカーテンが揺れる。風が秋の渇いた空気と、金木犀のほのかな香りを運んできた。  流し台で水をジャージャー流す音が聞こえて圭介が振り返ると、さっきまで窓の所にいた聖志は雑巾を絞っていた。圭介が何も言っていないのにCDやDVD、漫画の置いてある棚を拭き始める。「そんなのいいよ」と言う圭介に「いいからいいから」と返事をしながらテーブル、床の隅っこまでテキパキと全て拭き掃除する。それが済むと、今度はベッドの布団をベランダに干し始めた。枕カバーや、ベッドシーツを外して洗濯機を回す。  あまりにテキパキと動く聖志に、なにもそこまでしなくても……と圭介は呆気に取られた。  ありがたいけど……。    聖君って几帳面というか……真面目さんなんだなぁ。
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!

792人が本棚に入れています
本棚に追加