第二話 友達

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「ありがと、ごめんね。せっかく来てもらったのに」 「何言ってんだよ。遊びにきたわけじゃないって」 「でも、本当にいいよ? 適当で。聖君も座ってよ」  聖志は圭介の前まで来ると屈んで膝立ちになり、圭介の目を真っ直ぐに見てキッパリと言った。 「圭介、教えてやるよ。俺の性格」 「え、なに?」  突然の改まった聖志の様子とその迫力に、圭介は驚き、背筋がピッと伸びる。 「薄々分かってるとは思うけど、俺、妥協を許さない男なの」 「は、はぁ……」 「よく圭介に言われたよ」  よく……よく言ってたのか……。なんて? と圭介は聖志の目を覗き込んだ。聖志は真面目な表情を作ってすましていたが、唇の端を器用に上げて言った。 「……今、思ってたこと言ってみ?」 「す、ストイック……なのね?」 「あははは!」  聖志は豪快に爆笑した。立ち上がり、圭介の頭をぐしゃぐしゃと掻き混ぜて、「正解!」と言うと、鼻歌を歌いながら今度は台所の掃除を始める。  なんだかすっごく嬉しそうだ。これ以上変に遠慮するのも止めよう。やりたくてやっているようだし、台所はほぼ未使用に近い。だから酷く汚れてると言う事もなく、人に見られたところで恥ずかしいこともない。と圭介は思った。 「圭介、暇ならテレビでも観てなよ」  ストイック……。  圭介は頭の中で言葉を繰り返す。そして、自分の口角が上がって行くのを感じた。事故に遭ってから初めて味わう嬉しさとワクワクが圭介の胸を躍らせたのだ。  圭介の記憶にない二人の日々がまたこうやって新たに作られて行く。それは思い出となって記憶になるんだ。だから、失くしたという悲観よりも今この現在こそが大事だと前向きな気持ちになれた。  そこで圭介は一つの確信を得た。  こんな気持ちにさせてくれる聖志だからこそ、友達になったんだろうと。
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