第三話 至福

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「……ごめん」  腕の中、聖志を上目で見る圭介。ビックリしている表情に、聖志は動揺が顔に出ないよう何でもない風を装い口を開いた。 「お、おお。ビックリした。大丈夫? 足響かなかった?」 「うん、大丈夫」  何も気づいてないよね? 圭介の様子を確認する。他の男であろうと、女であろうと、目の前の人間が困っていれば手を差し伸べるのが当然だと聖志は思っている。だからこれは至極普通の行動だと考えながら、抱きしめた瞬間に全身から汗が噴き出した。圭介はそんな聖志にまったく気づいていない。  聖志は圭介の身体を絨毯へそっと降ろし腕を離した。それから立ち上がり、ローテーブルを元の位置へ戻し、圭介と同じように絨毯へ直に座りあぐらをかいた。もう既に顔はハンバーグに向かってニコニコしている圭介を確認して、手を合わせる。 「じゃ、退院を祝して、いっただっきまーす」 「おー、ありがとおー! いっただっきまぁーす」  圭介はさっそくハンバーグを箸でひとくち大にするとパクッと口に入れた。口を小さく閉じ、頬をぷっくり膨らませとても嬉しそうな表情になる。 「んー、うんまいっ」 「マジ? 良かった」 「聖君ってお料理上手だねぇ」  うんうんと頷きながら満足そうに圭介が言う。 「あはは。んなことねーよ?」  白米をごっそり箸で掬い、口の中いっぱいに頬張っては、そこに更にハンバーグを押し込む。それはそれは美味しそうに食べる圭介。聖志は圭介の様子に自分も満足そうにニッコリ微笑み、ハンバーグを口に入れた。
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