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納得がいかないと拗ねる圭介を余所に、聖志は口をモゴモゴさせながら、「ん」と言って、また立ち上がる。戻って来た手には缶ビールが一缶だけ。
「はい。飲むだろ?」
「お、ありがと。聖君のは?」
「俺はいいよ。今日は食べたら帰るし」
「あ、……そぅ……」
圭介が受け取った缶を見つめプルタブを開けると、聖志は冗談っぽい明るい声で言った。
「んだよ。寂しそうな顔すんなよー」
ついさっき甘えすぎだと反省したばかりなのに、もうしょんぼりとしてしまっている圭介。いつからこんなに寂しん坊になったのかと自分に呆れた。
やんなっちゃうな。
圭介は慌てて、寂しさを奥へと閉じ込め平気なフリをし誤魔化した。
「べ、別にぃ~」
聖志がそんな圭介の頭を撫でる。
「よしよし。明日はハンバーグ作ってやっから。な?」
「おう」
「そういえば、もう二ヶ月経つんだよね? ギブスはいつ取れるって言ってた?」
「あと二、三週間くらいかな? もう早く取りたいよ」
「そっかぁ~。きっと外して直ぐはリハビリとかもあるんだろうなぁ~。病院は来週の土曜日に予約だったよね?」
「うん」
「了解」
食べ終わると皿を運び後片付けを始める聖志。
慣れた手つきで食器を洗うと、使ったフライパンを熱して油を引き、元の場所に収める。テキパキした無駄の無い動き。後片付けが済むと、聖志はエプロンを外し、またソファへ戻ってきた。
「……ねぇ、聖君」
「んー?」
「ありがとね。いつも」
「なんだよ。改まって」
「いや、いつも面倒みてもらってさ。今更だけど、聖君の時間いっぱいもらっちゃってるなって。聖君だって、疲れてるだろうし、したいことだってあるだろうし、ずっと甘えてここまできちゃったけど。もういい加減にしなきゃね」
「俺、したいことして毎日充実してるけど?」
「うん、ありがと。感謝してる。でも、もう大丈夫だよ」
圭介は聖志の顔を見て、安心して? と微笑んで見せた。
「……そっか。分かったよ。じゃあ、なんか困ったら電話して?」
「うん! 足治ったらさ。どっか遊びに行こうね! お礼にさ。おごっちゃう」
「うん。じゃ、帰るね」
聖志は意気消沈した表情のまま、肩を落としマンションを出て行った。
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