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作業時間にどれくらい掛かるだろう。そう思いながら、はやる気持ちを抑え、スピードを出しすぎないように気をつけた。途中、大型の書店へ寄り、新品のアルバムや写真用の印刷用紙も購入する。
マンションへ到着すると、鞄とダンボールを抱え、ホールからエレベーターへ乗り込む。十五階の数字を押し、「早く早く」と心の中で急かした。部屋へ入ると一番にパソコンの電源を入れ、部屋着に着替え、ダンボールから写真の束やデータを取り出した。
塵一つ落ちてない床に写真を並べる。
どの写真にも圭介の笑顔があった。そしてどの写真も隣にいるのは聖志ではなかった。腕を組んで爆笑している写真。バスの中で頭を寄せ合い眠っている写真。ソフトクリームを舐めている二人。体育祭。文化祭。遠足。集合写真。全部、全部、全部。
俺の方がずっと……!
聖志は唇を噛み締め、写真を忌々しい気持ちで眺めた。
圭介は本当に記憶を失ってしまったのだろうか? もしかして、一生そのままなのだろうか? 脳の中は分からないことだらけだ。でも強い衝撃が加わった事で一部の記憶が消えてしまう事はよくある話だ。それならば、俺の人生を取り返す。いや、圭介を取り返すチャンスだ。
圭介と聖志は一年の時から同じクラスだった。
人との距離の詰め方が分からなくて、しかも人見知りな聖志はなかなかクラスに馴染めずにいた。中学で顔見知り程度だった奴さえ、同じクラスには居なかった。そんな時に声を掛けてきたのが圭介だった。圭介は目立つ存在ではなかったけど、誰とでも器用に仲良くなっていった。隣で聖志はよく感心したものだった。
そう。一年の時は近くにいられたんだ。あいつが現れるまでは。
聖志は拳をグッと握った。
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