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「あ」という顔で右手を差し出す転校生。二人は握手をした後、圭介が教壇に立ち、黒板に何か書き始めた。勢いよくカツカツチョークを走らせて、くるりと振り返ると教卓に手を突き、担任だった鈴木先生の口調を真似をした。
「え~~、マキタタカノリ君だ! 略してマキタカ! みんな仲良くするようにっっ!」
しかし、黒板に書いた名前はカタカナだった。
「あははは。漢字で書けよ!」と誰かがツッコミを入れる。聖志はそのやりとりを、口をポカンと開け、ただ見ているしかできなかった。
「漢字知んねーもん」
ケロッとした様子で言い放つ圭介。
「ふははは……だよねー」
戸惑いながらも笑う転校生を見て、圭介が可愛らしくウィンクをした。ドッとクラスの連中が笑う。
「あー。悪い。悪い。お待たせー……おや?」
やっと鈴木先生が教室に入ってきた。圭介は舌をペロッと出し、そそくさと席に戻った。周りからクスクスとさざなみのような笑いが起きる。鈴木先生は立ったままニコニコ嬉しそうに笑っている転校生と、席に戻った圭介を交互に見て、次に黒板を見た。
「なんだ。日比野、牧田君と知り合いか? じゃ、ねーな。漢字知らないもんなー」
みんながまたドッと笑う。席に戻ってきた圭介は、黒板を人差し指でピピッとさしながら言った。
「そのカタカナに漢字をふってやって下さい」
「わはは。逆だろ。逆!」
教室が笑いに包まれ、転校生はだいぶリラックスした表情になった。それでも、自己紹介をしろと言われてまた若干笑顔が引き攣る。
「ち、ち、千葉の、い、いち、市立……」
「マキタカ、ファイトー! 一発かましたれヘイヘイヘイ」
運動部特有の掛け声が教室に響き、転校生に集まっていた視線が一気に圭介に注がれる。クラスのみんなが振り返りクスクスと笑う。転校生はまた嬉しそうに笑った。
「こらこら。日比野。グランドじゃねーぞ」
先生の注意に、圭介がペロッと舌を出しおどけた表情を作った。
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