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なんで、圭介はこんなに奴の事をかまうんだろう? あいつがテンパってるから? 聖志はみんなと一緒に笑っていたけど、内心ではどんどん不安が押し寄せてくるのを感じていた。
笑いが収まり、やっと転校生の自己紹介が終わると、鈴木先生は当然という顔で圭介の横の空間を指さした。
「日比野、そこの机と椅子。お前の横に運んでやれ」
「はーい」
窓際の一番後ろにある無人の机と椅子を、ガガガと移動させ、自分の机の隣に運ぶ圭介。
「牧田、あそこ。とりあえずお前の席な?」
「は、はい」
「日比野、あんまりイジメんなよー」
「俺が可愛がってもらいますよ」
また教室がドッと沸いた。「ふふふん」とふざけた表情をして、隣へ「どうぞ」と両手で促す圭介。転校生は口元を綻ばせ、頭をペコッと下げて着席した。
すっかり打ち解けたように、微笑み合っている二人の横顔。
そうやって、圭介の横はあいつに取られてしまった。俺と友達じゃなくなったわけじゃない。でも、通じ合うモノがあったのだろう。俗に言う「気が合う」ってやつ?
聖志は遠い昔を思い返した。
結局、二人の間に割り込むことも、圭介を取り返すことも出来なかった。
思い返すたびに苦い感情が込み上げてきて胸が苦しくなる。消化できない思いに蓋をして閉じ込め、生きてきたのだ。
今日までずっと。
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