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「ふー……」
思い出に浸ってる場合じゃない。やることは沢山ある。聖志は過去を振り返るのをやめて作業に取り掛かった。
圭介と牧田が笑顔で写っている写真を全部、パソコンへデータとして取り込む。集合写真も、何もかも。そして、奴の顔を切り抜き、そこへ自分の顔を貼っていった。合成加工した画像を写真用の光沢のある紙へ印刷。作業は朝まで続いた。
出来上がったアルバムは、圭介と聖志の思い出の詰まったアルバムになった。
そう。圭介との出会いからやり直すんだ。キレイさっぱりと消えたあいつとの記憶。これはチャンスだ。圭介へ語って聞かせよう。どんなに俺たち二人が仲が良かったか。あいつさえ現れなかったら、俺たちは間違いなくこのアルバムの通りになっていたのだから。
聖志はアルバムの出来上がりに満足げに頷いた。
そして……
思惑どおり、圭介は聖志を信頼し、頼り、心を開いた。
自分の知らない自分がいる。存在した記憶すらない。これほど恐ろしいことはない。でも、それを俺が証明してやれる。圭介の消えた過去を補い、色をつけ、鮮やかに脳に浮かぶくらいに。圭介には俺が必要なんだ。一人、家に閉じこもり、毎日俺の帰りを待っている。ずっとこうやって、圭介の傍に居て、掛け替えのない存在になるんだ。ううん。もうなってるのかもしれない。圭介は気づいてないだけで。俺が居ないと……。
そう、聖志は思いかけていた。
計画は順調に進んでいるはずだった。
「……なんで……」
聖志は突然の解雇通告を受け呆然と車を走らせていた。
もういいよ。一人でやれるよ。お前は要らないよ。
俺じゃダメなのか? もしもあいつだったら。圭介は傍に居て欲しいと思ったのだろうか? こんなに想っていても、ダメなのか。
はらはらと頬に、いく筋も熱いものが流れ落ちていく。
聖志は泣きながらハンドルを握り締めた。
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