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聖志へ「もうひとりで大丈夫だから」と告げた日から二週間が経った。
圭介はその間の食事を、デリバリーや、松葉杖を突いて近所のコンビニに買い物へ行ったりしてやり過ごした。
今朝はタクシーを使い、一人で病院へ行きギブスを外してきた。明日からはリハビリも始まる。
聖志にはあの日以降、連絡をしていない。
できないと言う気持ちがあった。聖志からも連絡はないが、圭介はリハビリが終わったら自分から連絡をしようと決めていた。世話になったお礼をちゃんとしたいと考えていからだ。「もうすぐだ」そう毎日、自分を励ましていた。
仕事も、趣味も、圭介にはやることがいろいろある。元々一人は得意なのだ。でも正直、寂しい。それが圭介の本音だ。なので、寂しくなると圭介はベッドへ座り、ヘッドボードに置いてあるアルバムを手に取り眺め、ゆっくりと表紙を開いた。
「大丈夫。俺にはこれがあるし」
相変わらず圭介の記憶は戻らない。何一つ新しく蘇るものはなかった。圭介にあるのは聖志に教えてもらった記憶だけだったが、それだけで圭介には十分な安定剤であり、お守りだった。一枚一枚の写真を見ながら、聖志の話を思い出すと幸せな気持ちになれた。
突然静かな部屋に携帯の音が鳴り響く。
手に取って携帯の通知を見ると会社の上司からだった。
「もしもし? 日比野です。お疲れ様です」
『おぉ、どうだ? 体の調子は』
「おかげさまで順調です。今日はギブスを取ってきました。明日からリハビリです」
『そうか、頑張れよ』
「ありがとうございます。ご迷惑おかけしますがお願いします」
『うんうん。それで用件なんだが、この前送ってくれた梅田の文化会館データはまだ手元に残ってるか?』
「えぇ、はい。もちろん」
『悪いが数字の変更が発生した。メールはパソコンへ送信済みだ。データを入れ直した設計図を送って欲しい。明日でいいから』
「明日でいいんですか?」
『出来れば明日の午前中に頼む』
「承知しました」
『すまんな。お大事に』
「はい。ありがとうございます。では、失礼します」
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