第五話 メモリースティック

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 圭介は大手の建設会社で働いていた。仕事は設計だ。意匠設計や構造設計の部署にいた。  意匠設計では建物のコンセプトに基づいた外観、内部空間のデザインや、用途、人間工学、コストを考慮した機能デザインを設計し、構造設計では地震、風雨、荷重に耐えられる安全な建築物のために、骨組みとなる構造を設計する。    もし営業職だったら、有休を使い果たし無給状態に陥り、最悪実家へ戻らなければいけないところだったが、自宅でも出来る仕事で本当に助かった。  圭介はそう思いながら携帯をベッド横の棚に置こうと手を伸ばした。途端、膝の上に置いていたアルバムがドサッと床に滑り落ちてしまう。 「あーもー……」  ベッド下に落ちてしまったアルバム。怪我がなければなんてことのない距離だ。ベッドから足を下ろし、ちょっと屈めば簡単に拾い上げられる。しかし、ギブスが外れたとはいえ、今までかばい続けていた足で踏ん張るのは怖い。圭介は上半身だけ捻り、左手で体を支えながら右手で床に落としたアルバムを拾おうと手を伸ばした。カツンと指先に軽い何かを弾く感触。  ん? なんだろ……。  疑問に思いながら手探りすると、小さな物に触れた。拾い上げるとメモリースティックだった。初めて見る物だ。自宅で仕事を始めるようになってからメモリースティックを使った覚えがない。つまり圭介の物ではない。思い当たる持ち主はただ一人、この部屋に招いたことのあるの水沢聖志だけだ。  メモリースティックを持ち歩いているとなると、中身はプライベートのものじゃなくて、仕事のデータを収めた物じゃないだろうか。いつも仕事帰りに寄ってくれていたのだ。可能性は十分ある。だったら、今頃失くしたと困っているかもしれない。連絡してあげなきゃ。  圭介は携帯を手に取り、アドレス欄を開いた。散々耐えていた番号を開き、躊躇なく通話ボタンを押す。耳元で鳴るコール音は圭介に妙な緊張感とワクワクをもたらした。
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