第五話 メモリースティック

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「…………」  しかし、その感情も徐々に薄らいでいく。コール音ばかりでなかなか繋がらない電話。 ……出ないな。仕事中?   気分が高揚していただけに、がっかりした。しばらく待ったが、コールはとうとう留守電に切り替わってしまった。仕方なく、留守電にメッセージを残す。 『あの、聖君? 俺です。留守電だから、ひとまず要件だけ言うね。メモリースティックが家に落ちてた。聖君のじゃない? 俺のじゃないから連絡してみました。気づいたら連絡下さい』  ピーという電子音は容赦なく終わりを知らせる。とりあえずこれで聖君から連絡がくるはずだ。圭介はそう思った。  しかし連絡は、待てど暮らせど来なかった。  忙しいのかな? 携帯もどこかに置いてきちゃって留守電に気付けないとか! それとも、そも聖君のじゃないのか? いや、そんなはずはないよね? 聖君のじゃなきゃ誰のだよって話しだし。うーん……。  圭介の頭を占めるのは、聖志からの電話とメモリースティックの事ばかりだ。上司に頼まれた仕事のことなどすっかり頭の中から消えていた。  確認しちゃう? マジでか! よくドラマとかであるよね。開いて見るとヤミ献金の裏帳簿だったっ! とか、製薬会社だし……なんか怖ええーーーー。きっと見ない方がいい。自ら危ない橋を渡るようなことしない方がいいんだよ。圭介はウンウンと頷きながらもしっかりPCへ向かってしまっていた。好奇心に弱い自分を呆れてしまう。   実は本人は自覚していないが、圭介は昔からそういう所がある。決して向こう見ずとかではない。頭の中で散々いろいろと想定した上で、なお足を踏み出してしまう。確認をせずにはいられないというか、想定する結果を迎えるまでの、ドキドキ感に理性が保てないのだ。圭介はごくりと喉を鳴らし、PCにメモリースティックを差し込んだ。ディスプレイにパスワード入力ウィンドウが表示される。  チッ! やっぱりか……。
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