第五話 メモリースティック

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 こうやって、ドラマか何かの主人公を気取ることも圭介は楽しんでいた。カタカタカタと聖志に関連する数字や文字を入力してはエンターキーを押し、エラーになる。プオンという音に、若干イラッとしつつも次々と必死にパスワードを試す。弾かれていくパスワード。思いつくパスワードが尽きてきて、圭介は頭を抱えた。そんな自分がますますドラマの主人公みたいだなと、内心思った。  ひとり遊びを散々して満足した圭介は、大人しく上司からのメールを開き、変更されたデータをもとに設計図を作り直し上司宛へメール送信した。その間も聖志からの連絡はない。 「はぁ……」  圭介は諦めてPCを閉じ、ベッドへ入った。  次の日も聖志からの連絡は来なかった。その次の日も。  どうなってる? もし必要なデータじゃなかったにしろ。ありえないけど、聖君のじゃなかったにしろ、返事くらいくるよね? 何かあったのかな? まさか闇の組織に? 国家の陰謀に巻き込まれたとか?   遊びの延長で冗談を言ってる場合じゃないと圭介は自分を窘めた。あまり考えたくはない事だが、自分に起こったことも踏まえ聖志の身に事故か何かあったとも考えられた。  想像した途端、体内を一気にスッと冷たい血が走る。  どうしよう……もう一回連絡してみようかな……?   言いようのない不安が圭介を覆った。圭介はメモリースティックをリビングの棚にしまい、いつも聖志が仕事を終えて帰って来ていた時間までジッと我慢し、その時間が来たと同時に連絡を入れてみた。  やはり繋がらない電話。  不安はどんどん募っていく。なんで繋がらないんだ! という疑問で圭介の頭はいっぱいになっていた。電話一本繋がらないだけで、聖志とのパイプが完全に途絶えてしまうなんて圭介は考えもしていなかった。  それほどに聖志は圭介の中ですぐ傍に居たのだ。
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