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何度かけても繰り返す、同じ電子ボイスに圭介の苛立ちは頂点に達した。
気がおかしくなりそうだ。
ふと鉄の味がして我に返る。どうやら指先で無意識に弄っていた唇を爪で傷つけてしまっていたらしい。人差し指と親指の爪の周りに赤い色が滲んでいた。手の甲で下唇を拭うと赤黒い血液で汚れる。舐めておくしかない唇を口内へしまい鉄臭さを感じながらアルバムに目を向けた。
なんだったんだ?
圭介のぽっかり失ってしまった記憶を、唯一知ってる聖志。
いきなり現れて、全てを圭介に教えた。親切過ぎるくらいに手とり足取り圭介の面倒をみた。なのに突然連絡がつかなくなるなんて。
……いたんだよね? 本当に。頭がおかしくなった俺の幻覚とかじゃないよね?
圭介はアルバムを手に取り、もう何度も眺めたページを開いた。何度見ても進展は何もなかった。ただアルバムだけが存在してる。
聖志もいない。記憶もない。
これは……なんなの?
あれだけ夢中になり、眺めるだけで楽しい気持ちになったアルバム。しかし今は圭介の顔を歪ませるばかりの代物になっていた。
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