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聖志もいない。
記憶もない。
これは……なんなの?
「…………」
圭介の感情が暗闇に覆われ、なにも考えられなくなる。
パタリとアルバムを閉じた時、インターホンの音が部屋に響いた。圭介は顔を上げ薄暗い玄関の方を見た。
こんな時間に誰だ? 聖君? だとしたら、いつものように鍵を開けて「ただいま」って……。
ピンポーン。と繰り返されるインターホン。
……「ただいま」って……。
その声が聞きたい。ねぇ、言ってよ。いつもみたいに。買い物袋手に下げて「今日はハンバーグだよ」って。俺に……笑いかけてよ。
気がついたら圭介は、松葉杖を突き玄関の前で立ち尽くしていた。
震える手で鍵に触れると、扉の向こうから圭介の願った声が聞こえた。
「俺だけど……遅くにごめん。起きてる?」
圭介はスーッと息を吸い込んだ。恋しい声を噛み締めながら、ゆっくりと硬く冷たい扉に額をつける。
……ほら、いるじゃん。ちゃんと。幻覚なんかじゃない。
圭介は額を当てたまま深呼吸し、鍵を開けた。
扉がゆっくり、スローモーションのように開いていく。
そのドアを見ながら、圭介は松葉杖を手放した。カランカランと松葉杖が床に落ちた音が響き、同時に聖志へと倒れ込む身体。
圭介の額は温かなぬくもりに受け止められた。
「圭介!? ちょ……、大丈夫? どしたの?」
ガシッと力強い腕が圭介の体を支える。
その腕とは正反対の頼りなく動揺した声。
圭介は安堵を感じながら、詰まるような苦しさの中、なんとか言葉を吐き出した。
「……なんで? なんで、いな……っちゃっ……たの?」
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