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思いもせぬ突然の告白とキスに圭介はポカンと目の前の聖志の目を見つめた。後ろから抱きしめていた腕がスッと外れる。その次には圭介の体はクルリとひっくり返され、狭い玄関の壁を背にして覆うように閉じ込められた。
「へ、……ええ?」
圭介は動揺する事ぐらいしかできないでいた。
まさか男の自分がキスされてこんな状況になるなんて想像もできるはずがない。
聖志の真っ直ぐな目に見つめられる。どこか憂いのある漆黒の瞳は気を抜けば吸い込まれてしまいそうだった。
「…………」
「ずっと……好きだった」
「う、うん……」
何が「うん」なんだ? と圭介は自分の返事に疑問を抱いた。
肯定してしまったけれど、圭介は知らなかった事実で、もちろん学生の時の記憶もない。思い当たる節と言えば、聖志が親切過ぎることだが、聖志をさほど知らない圭介は聖志を友達思いの優しい人物だと認識していた。それに比べる対象者もいないから余計である。
やはり自分を恋愛対象として見られているという根拠にはならなかったのだ。
聖志はすごく苦しそうな表情をしてる。眉を潜め、まるで痛みを耐えているみたいな表情だ。
「でも、記憶を失くした圭介を混乱させたくなかった。だから……言うつもりなかったんだ」
「あー……うん」
「友達として、圭介の力になれたら。それだけでいいって」
圭介がまた「うん」と返事をすると、聖志は苦笑いして首を横に振った。そして自分の言葉を否定した。
「違うね。友達の顔して本当はずっと、圭介を抱きしめたかった。俺が居るから大丈夫だよって。言いたかった」
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