第一話 再会

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 圭介は俺の事なんて何一つ覚えてない。きっと、話し掛けたところで思い出す事もないのだろう。そう思うのに、聖志の足は動かない。圭介が入っていった診察室のドアをジッと見つめ立ち尽くしていた。 「……あの」  近づいてきた女性に声を掛けられ聖志は我に返った。  先ほど圭介の隣に座っていた年配の女性だ。圭介に目元の雰囲気が似ている。   「もしかして、圭介のお友達?」 「ああ。はい。と言っても、高校の時なんで……忘れられてますね」  友達なんておこがましい。ただのクラスメイト。だから圭介の記憶の片隅にも残ってない。聖志が苦笑いして答えると、女性は「そうですか」という感じに頷いて、申し訳なさそうに表情を曇らせた。 「あの子、今、事故の影響で記憶が飛んでる部分があるんです。なので……すみません」 「え? 事故? あ、良かったら、座ってお話しを聞かせてください」  聖志の言葉に女性はホッとした様子で頷いた。  待合室の隅へ並んで座る。聖志は名刺を内ポケットから出し、簡単に自己紹介をした。圭介と高校時代の友達だと説明すると、圭介の母親から少しだけ笑みが零れたが、表情は不安げなままだった。 「私も病院から連絡があった時はもう驚いちゃって……」  事故に巻き込まれたのは一ヶ月前の四月初め。歩行者信号が青になり横断歩道を渡ろうとした圭介の前に、乗用車が左折しようと強引に突っ込んできた。圭介は勿論立ち止まったが、圭介の後ろから自転車がノンストップで突っ込み、車の横っ腹に激突。圭介は避けきれず、跳ね返った自転車の運転手をもろに受け止めた。倒れた衝撃で頭を強打。変な倒れ方をしたせいで足首を折ってしまった。  圭介の母親の話に、聖志は深く頷いた。
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