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探すまでもなく、今度は場所が特定できている。音源は飾り物扱いになっていたあの黒電話だ。
古民家旅館のディスプレイだと思っていたが、使えないとは一言も聞かされていない。
客商売だから、さすがに旅館の人がイタズラをしているとは思わないが、あの黒電話の番号に、今もたまに間違い電話がかけられて、結果、鳴り響いて周囲を驚かすということくらいはあり得る話だ。
全員がそう納得したところに、また、黒電話が鳴り響く。だけどもう、誰もそれに驚きはしない。
どこかの誰かの間違い電話。…でも、時間が時間だ。番号の間違いだとしても、かけてくる方にはのっぴきならない用事があるのではないだろうか。
一度電話に出て、それを教えてやった方がいいのではないか。
誰からともなくそう考え、一番近くにいた俺が受話器を取ろうとした時、電話が鳴り止んだ。それと同時に隣にいた友人が気づいた。
黒電話には電話線がなかったのだ。
こんな骨董品まがいの物がワイヤレスの筈もない。一応調べてみたが、音が鳴る玩具とかでもない。本当にただの通じていない黒電話だ。
リリリリリリリーーーーーン
鳴る筈のない黒電話がまた鳴り出す。
もう誰も、受話器に手を伸ばす者はいなかった。
黒電話…完
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