第2章

5/10
前へ
/156ページ
次へ
「…あ、お、おはようございます…!」 慌てて返す私。 しまった。 目上の相手である榛葉課長に先に挨拶させるなんて。 気まずさから必要以上に深いお辞儀になってしまう。 榛葉課長は私のそんな失態を気にする風でもなく、柔らかく微笑んだままだ。 「中川さん、早いですね」 「あ、はい。少しやることがあって…」 「営業本部、忙しいんですか? 繁忙期ではないと思っていましたが…」 「い、いえ! 個人的なことですので…!」 妙な誤解をされてしまいそうなので、必死に誤魔化す。 必死すぎてかえって怪しいかもしれない。 その時、エレベーターが到着したらしく、扉が開いた。 榛葉課長はスマートな所作で乗り込むと、開閉のボタンを押して待ってくれる。 「…どうぞ、中川さん」 「…あっ、す、すみません! ありがとうございます」 平謝りしながら中に駆け込む私を見て、榛葉課長はクスッと笑い声をたてた。
/156ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2892人が本棚に入れています
本棚に追加