第2章

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「3階でいいですか?」 「は、はいっ。…すみません」 「あまり緊張しないでください。 それとも…僕、怒っているようにでも見えますか?」 「い、いえ…そんな…すみません…」 「…ふふ、こちらこそ」 馬鹿の一つ覚えのように『すみません』を繰り返す私に対して、榛葉課長の穏やかな態度は変わらない。 初めて間近で見る課長の目は、色素が薄いのか、透き通っているような美しさだった。 …そう。 こんな風に榛葉課長を見るのは初めてだ。 歳は…多分30歳くらい。 男性にしては色白で、ほっそりしている。 でもひ弱に見えないのは、容姿や振る舞いに品があるからだろうか。 自然な感じで流した栗色の髪、長い指、凛とした雰囲気。 …綺麗だと思った。 そして同時に、浅黒い肌で親しみやすい雰囲気の貴文とは正反対だと思いつき すぐに貴文に結びつけてしまう自分が、情けなく惨めだった。 そうしているうち、エレベーターは3階に到着し、扉が開く。 その瞬間、新しい風が吹き込んだような清々しい気分になった。 どうやら相当緊張していたようだ。 私は『ありがとうございます』と頭を下げ、足早に降りた。 「…あ、中川さん」 ふいに、榛葉課長が呼び止めてくる。
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