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振り返ると、さっきまでの微笑みはなく、真剣な表情で私を見ている。
「…は、はい…?」
「……………」
榛葉課長は、何かを言おうとして思いとどまり、逡巡するような様子を見せた。
一瞬、私に何か不手際があったのかと思ったが(あったと言えば、あったけど)、そんなようには見えない。
むしろ、私を労るようにも感じられる顔だった。
「……いえ、すみません。何でもありません」
結局、榛葉課長は、そう言ってまた笑みを浮かべる。
…なにそれ。
そんな風に言われたら、余計に気になるんですけど。
でも課長が『何でもない』と言うなら、問い詰めるわけにもいかない。
もやもやした気持ちを、下手くそな作り笑いで押し込め『わかりました』と頷いた。
そのままエレベーターの扉は閉まり、階を示すランプが3から4へと移動して、5で止まる。
「…はあああ」
やっと解放されたと、ため息とともに肩を撫で下ろした。
…緊張した。
早朝出勤なんて、慣れないことはするものじゃない。
それにしても、榛葉課長って、いつもこんなに早く出勤しているのだろうか。
だとしたら、秘書課って大変なんだな。
「…ま、私には関係ないか」
それより、やるべきことをしよう。
妙な解放感により、少し気分が高揚した私は、やや足早に更衣室へと向かった。
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