第2章

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振り返ると、さっきまでの微笑みはなく、真剣な表情で私を見ている。 「…は、はい…?」 「……………」 榛葉課長は、何かを言おうとして思いとどまり、逡巡するような様子を見せた。 一瞬、私に何か不手際があったのかと思ったが(あったと言えば、あったけど)、そんなようには見えない。 むしろ、私を労るようにも感じられる顔だった。 「……いえ、すみません。何でもありません」 結局、榛葉課長は、そう言ってまた笑みを浮かべる。 …なにそれ。 そんな風に言われたら、余計に気になるんですけど。 でも課長が『何でもない』と言うなら、問い詰めるわけにもいかない。 もやもやした気持ちを、下手くそな作り笑いで押し込め『わかりました』と頷いた。 そのままエレベーターの扉は閉まり、階を示すランプが3から4へと移動して、5で止まる。 「…はあああ」 やっと解放されたと、ため息とともに肩を撫で下ろした。 …緊張した。 早朝出勤なんて、慣れないことはするものじゃない。 それにしても、榛葉課長って、いつもこんなに早く出勤しているのだろうか。 だとしたら、秘書課って大変なんだな。 「…ま、私には関係ないか」 それより、やるべきことをしよう。 妙な解放感により、少し気分が高揚した私は、やや足早に更衣室へと向かった。
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