第1章

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まさか泣きながらこんなもの書くことになるとは思わなかった。 両目からだらだらと涙を流し、鼻をすすり上げ、嗚咽をもらす。 一人暮らしの1DKの部屋は、いつもその狭さに辟易していたというのに、今日に限ってはやたら広く寒々しく感じた。 部屋のまん中に置いた低いテーブルに座り込み、泣きじゃくりながらペンを走らせる。 ほとんど決められた文章をなぞるだけの、コピペみたいな作業だったけれど、やっぱり例の言葉を書くときだけは手が震えた。 『退職願い』 3年勤めた会社。 パッケージデザインを扱うメーカーで、それなりに全国展開をしている中小企業。 大卒で入社して、営業事務として無難にやってきた。 正直、仕事にやりがいを感じていたわけじゃないけど、特に他にやりたいことがあるわけでなく、時期がくるまではそのまま無難にやりすごすつもりだった。 この場合の『時期』は、すなわち婚期。 私は、会社を辞めるのは寿退社に違いないと思い込んでいた。 ―――相手だっていたのだから。
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