第1章

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よくある話なのかもしれない。 上岸 貴文(かみぎし・たかふみ)――――付き合って2年の社内恋愛の彼氏。 4つ年上で、出世を期待されている営業部のエース。最近そろそろ身を固めたいという内容の話をよくするようになった。 ここで彼との結婚を夢みた私は、自意識過剰だろうか。 『話がある』とバーに呼び出され、並んでお酒を飲んでいるとき、プロポーズを期待したのは愚かだろうか。 だって、思いもしなかった。 『好きな人が出来たから、別れてくれ』 そう、言われるなんて。 しかも、相手は上司に紹介された取引先の常務の娘だというのだ。 『彩羽(いろは)のことは、本当に好きだった。結婚を考えたこともある。でも、その度に違和感を持ってしまったのも事実なんだ。 上手く言えないんだけど、彩羽との結婚生活が現実味がなかったというか…』 そんなときに、常務の娘を紹介され心が揺れてしまった。 貴文の言い分は、そういうことだった。 『全部、俺の弱さのせいだ。何度も彩羽のこと、昔のようにもう一度愛そうとした。 でも、どうしても心は戻らなくて…。彼女に惹かれていくのを止めることが出来なかった。 こんな状態で付き合いを続けても、彩羽を傷つけるだけだ。 だから、彩羽……どうか……』 どうかわかってくれ――― 自分こそ傷ついたような顔をしてそう言った貴文に、私は返す言葉もなかった。
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