第1章

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――何をわかれと言うのだろう。 私のことでそんなに悩ませてごめんね。ありがとう、幸せにね。 …とでも言って欲しかったのだろうか。 そして穏やかにカンパイでも交わすつもりだったのだろうか。 まさかね。 だとしたら、本当に愚か者だ。 貴文も、……そんな男を好きだった私も。 自分が悪いと言いながら、言い訳と私への責任転嫁にまみれた別れの言葉。 綺麗に取り繕っているつもりかもしれないが、要するに私と結婚しても出世の足しにならないから、取引先の娘に鞍替えしたということだ。 それくらい私でもわかった。 あまりのことに、言葉も出てこなければ、涙も流れない。 彼はそんな私の様子を都合よく解釈したのか『ありがとう。彩羽の幸せを願っているよ』なんて、最低の文句を付け足してきた。 『さようなら』 そう言い残し、私を置いてバーを立ち去る貴文。 私はその背中は見送らず、手元に置かれたカクテルを凝視していた。
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