第1章

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泣いて、泣いて、……家に帰ってきてからも泣いて…… 悲しいというより、悔しいというより、ただ泣くという行為に没頭したまま時間は過ぎていった。 ようやく少し頭が冷えてきたのは、日付も変わろうかというころ。 涙は止まらなかったが、そんな自分をどこか冷静に見ることが出来るようになっていた。 「…これから、…どうしよう…」 自分でも驚くほど掠れた声で呟く。 『これから』というのは、もちろん明日からの生活……特に仕事だ。 貴文とは社内恋愛。しかも同じ営業部の所属だった。 もっとも営業マンとして外回りの多い彼と、デスクワークばかりの私は、仕事中顔を合わせることは少なかった。 ただ営業事務の仕事は、言ってみれば営業マンの補佐。 直接顔を合わさずとも関わる機会なんていくらでもある。 幸いにも、貴文との関係は周囲には秘密にしていたから、周りからとやかく言われることはないだろうが。 こうなってしまった今、これまでのように貴文と仕事をする自信なんて、とてもなかった。 そして、おそらく貴文も私がこのまま社にいることを快くは思わないだろう。 彼にとって都合のいい展開になるのは悔しいけれど、なにより私が限界だ。 「…やめるしか、ないよね。 もうあの会社には……居られない…」 私はノロノロと立ち上がり、筆記用具を探し始める。 結婚を考えていた相手に振られ、泣いて泣いて… その次にしたことは、退職願いを書くこと 彼から物理的に逃げ出すことだった。
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