2016年

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わたしは母に殺されたいわけじゃない わたしは母に殺されたくない その言葉が事実じゃないとしても そんなことは言われたくない わたしは母を殺したいわけじゃない わたしは母を殺したくない だから《私を殺して》 なんて言わないで 母にとって いつから死はそんなに軽くなったのか 死にたいほど苦しいと思えばいい 死にたいと泣き叫んでもいい でも 《死んでやる》とか《私を殺して》とか そんな言葉は許せない 娘に母親殺しの罪を犯せと 懇願する母を わたしはどうすればいいのでしょうか わたしには 数時間に亘るヒステリーも 泣き声も わたしに対する罵りも 嫌みも 耐えうる心はないのに 何を言っても通じない 何を言っても通じない 自分の母親はおかしいのだと 決めつけて楽になれるならば どれほど楽だろう 母に殺されると 何度身構えただろう そんなに死にたければ 一度 自分の腕を鋭利な刃物で切り裂いてみればいい 自分の身体に2㎜を超える針で穴を開けてみればいい ただそれだけの傷なのに 痛いんだ とても とても 死ぬことの意味を 死を仄めかす言葉の意味を 知らないわけじゃないと 知らないわけじゃないと 思うのに
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