第三話、かけっこ

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 …――トーコの宝は何なのか、それは分らない。  分らないが、それでもヒントは存在する。ヒントを知る為には僕らが宝の話をした頃より更に数年さかのぼる必要がある。僕とトーコが初めて出会った日から数ヶ月ほど経った、それなりにお互いの事を知った程度のある夏の日にヒントは隠されていた。その日は朝から暑かった。  蝉が鳴いている。  うるさいとも言えるが蝉に罪はない。彼らは長い間、地中で過し、やっと陽の当たる世界に羽ばたいたんだ。しかし羽ばたいて数日で彼らは死ぬ。そういう定めなのだ。そんな儚き生を背一杯主張したとしてもそれは許されるべき事だろう。むしろ夏に蝉が鳴いていなければそれはそれで寂しい。  そんな蝉達が生を謳歌する夏。  うだるような暑さの中、僕とトーコは、また公園にいた。数年後に宝の話をするであろうあの公園にいたのだ。その時は子供らしくオママゴトや鬼ごっこなんかをして遊んでいた覚えがある。そんな最中、トーコが言った。 「よし。二丁目のコンビニまで競争ね。負けた方がアイスをオゴる事ッ!」  暑さに耐えかねたのだろうか。かけっこが苦手な僕に対して勝負を吹っかけアイスをオゴらせる気でいるらしい。子供の考えそうな事だ。僕は嫌々約束させられた。そうして僕とトーコとのアイスを賭けたかけっこが始まった。 「うっし。宗春なんかには負けないわッ!」  やる気満々のトーコ。 「……このクソ暑い中、かけっこなんて自殺もんだよ。本当にやる気?」  渋る僕。 「うっし。じゃ、位置に着いて。よーい、どんッ!」  僕はアイスをあきらめトーコの合図でのろのろとスタートする。
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