第一話、日課

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「きゃは。宗春(むねはる)。よっ、お早うッ! 相変わらず幸せかね。私はすこぶる幸せ過ぎて顔が緩んで困ってるわよ。あはは」  宗春とは僕。  今、目の前には幽霊になった軽いノリで小馬鹿にするような幼なじみのトーコがいる。薄緑色の艶やかな髪を風になびかせ、何とも不思議なオレンジ色で大粒なビー玉のような瞳を愛らしくクリクリと動かしている。そして通った鼻筋と熟れた果実のような唇もまた彼女が幽霊であるという事実を忘れさせるような要素だった。  …――僕は霊能者。そして彼女は幽霊。  修験者とも呼ばれる霊能者だ。修験道では森羅万象に神が宿るとして日本全国の霊山に篭もり厳しい修行を行なう事によって超自然的な力を得る。山にひれ伏す事から山伏とも呼ばれる霊能者だ。  僕が霊能者になったのにはちゃんとした理由がある。  僕は彼女を除霊する為だけに生きているのだ。もちろん彼女は完全に死んでいるし、生き返らすなど、この世のどんなに高名な霊能力者でも無理な話だろう。だったらせめて成仏させてあげたい。そう思ったのが始まりだった。それは僕の使命だし懺悔だと思っている。そして彼女を成仏させる為にも厳しい修行に耐えたのだ。  …――彼女の未練を断ち成仏させる。  彼女だけを成仏させる為だけに霊能者としての厳しく辛い修業に入った。それはすなわち僕の罪滅ぼしなんだ。僕は彼女を殺してしまった。トーコを殺してしまったのは僕自身なんだ。だから僕の手で彼女を成仏させる。そうしたら彼女もきっと情けないこんな僕を許してくれる。そう思っていた。  そうしてトーコを殺してしまった瞬間から僕の罪滅ぼしが始まった。
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