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店員が料理を運んできたが、僕は彼女から目を離せなかった。
「記憶がもたない……?」
「月曜日になったら、日曜日までの記憶を全て忘れてしまうんです。だから今日のこの楽しい思い出も、あなたのことも、明日には忘れてしまう」
彼女の目から、涙が一粒テーブルに落ちた。
だからデートは今日にしようと言ってきたのか。
明日には、彼女にとって僕は知らない人になってしまうから。
「あなたのこと、傷つけてしまう。だから……」
「いいよ、僕は」
彼女が困ったように、言葉の続きを求める。
「忘れられても。傷ついても。それでも僕は、また君に会いたい」
「でも……っ」
「冷めちゃうから、食べよう?」
指で彼女の頬の涙を拭った後、箸を持つ。
なかなか食べようとしない彼女に、僕は言った。
「大丈夫、心配ないよ」
何の根拠もないけれど、本当にそう思った。
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