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「あっ、……す、すみません!」
彼女に駆け寄る。
「勝手に撮ってすみません。すぐに消すので」
画面を見せながら削除ボタンを押そうとした時、彼女がそれを手で制した。
「消さなくて大丈夫です。ここ、素敵な場所ですよね。私もこの景色が大好きなんです」
遠くを見つめる彼女の目はどこか寂しげで。
「隣、座ってもいいですか?」
頷いたのを確認してから腰掛ける。
「ここよく来るんですか?」
彼女は髪の毛を耳にかけながら答えた。
「ときどき。この景色を見てると、いろいろと忘れられる気がするんです」
その後、「何もしなくても忘れるんですけどね」と付け足した言葉の意味が、その時の僕には分からなかった。
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