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一礼した話者が舞台袖へはけていった頃、めぐりはボトムのポケットに触れながら恐怖におののいていた。
自分のポケットにも硬く触れるものがあるのだ。それもどこにでもあるようなただの石が。
「川で石は拾っちゃだめなんだってよ、めぐり。めぐりはなんでも拾う癖あるからなぁって、めぐり? どうしたんだ?」
拾い癖なんてまったくない。けれど今は桜士の冗談に付き合っているどころではなかった。
このいつ自分のポケットに入ったのかもわからない石をどうしたらいいのかということに気を取られているからだ。
「ん、え、あ、何?」
「何きょどってんだ。あ、もしかして今の話が怖かったとか? 今のはそんな怖くなかったと思うけどな」
「僕もそう思います。さっきのはあまり怖くなかったですよね」
話に割り込んできたのは、この怪談語りに誘ってくれた宮永の弟、徹だった。
徹はめぐりたちのひとつ下で中学三年生だ。
もちろん怪談語りには基本的に未成年はだめなのだが、桜士が参加すると聞いて無理矢理ついてきたのだという。
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