処方箋:本編

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通話ボタンを押し 「もしも…「悠!!」 母の叫び声が俺の耳に届いた 「悠!悠!」 「母さん?どうしたの?」 酒は一気に醒め 俺は母に寄り添うように 長椅子に座っている 母はこんなに小さかっただろうか 小さく震える肩に手を置くと 「悠…。」 母の目からまた涙が溢れ 膝を抱えながら声を殺して泣いている あの扉の向こうに 兄がいる 兄は… 最後の言葉も残さず逝ってしまった 「洵を連れて家に帰ろうか…」 父が段取りを終え 母の肩に手を置くと 母は父のジャケットの裾を握りしめ初めて声を出して泣いた 「悠、優子ちゃんに連絡してくれるか?」 彼女は兄の枕元に座り 冷たく硬い顔を撫で ずっと兄の名前を呼び続けていた いつも甘い声で呼び続けていた あの声は 痛いくらいに悲しく 『洵』 と呼ぶ     優子さんは葬儀の間 友人達に付き添われていた こんな時でも 不謹慎な俺は彼女を見て 儚く美しいと思ってしまう
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